熱処理用語の解説

真空熱処理(しんくうねつしょり)  [s20]

真空中で行う熱処理の総称して真空熱処理といいますが、鉄鋼の熱処理では、窒素ガスなどを使った低真空状態のものも含んでいます。

この真空熱処理は、空気中の酸素を除去することで、品物表面に有害な酸化や脱炭がほとんど発生しない光輝状態で熱処理ができるので、近年は工具鋼などの高級鋼の熱処理の主流になっています。

鉄鋼の熱処理に使われる「真空炉」は、加熱中に空気中の酸素と反応することを避けるために脱気した状態で加熱する密閉構造の炉が使用されます。

熱処理で言う真空は、スペースシャトルや静止衛星が飛ぶ宇宙空間のような高真空状態ではありません。

真空度を上げすぎると、高温に加熱中に鋼中の合金元素が飛散するので、適度な真空状態で加熱していますし、近年では、鉄鋼の熱処理では、炉中に窒素ガスを入れて、昇温の効率化を図っている加熱炉が主体になっています。

また、一般熱処理では、熱源は電気加熱が多く、ヒーターの熱で加熱します。

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炉内を真空にすると、輻射(放射)熱だけで昇温させることになるので、加熱時間がかかるので、微量の窒素ガスを流して、その対流を利用して加熱するタイプにしているタイプで、さらに、焼入れ温度からの冷却を早める必要から、窒素ガスを高圧にした状態で炉内に吹き付けて冷却する「加圧冷却」という方法で焼入れするタイプが主流です。

標準的な炉のタイプは、1室タイプが多く、加熱室と冷却室を兼ねています。その他には、加熱室やパージ室(雰囲気を変えるための部屋)などを持った、2室・3室構造の炉もありますが、それぞれに長短所があります。

常温状態で品物を入れて減圧するために、多くは、2種類以上の真空ポンプを使って急速に高真空状態まで脱気して加熱されます。

真空にする過程で、品物表面の油脂類や汚れが取れる・・・とされるのですが、これは、真空ポンプの劣化をまねくので、熱処理前の洗浄などの前処理が必須です。

この前処理や加熱中の問題を起こさないように、黒皮(スケール)のついた品物やさびている品物は不向きです。

黒皮やサビは真空度や機器を劣化させ、さらには、同時に処理する他の製品を変質させるので、真空熱処理をするには、光輝状態の品物であることが基本です。

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真空熱処理は ①焼入れ加熱中の酸化や脱炭を抑える ②光輝性の高い仕上がりになる・・・ などの長所があるのですが、費用(設備費用+メンテナンス費用)が高価であるのが短所といえます。

また、窒素ガスでの冷却速度を高めるために、一気に大量のガスを流す「加圧冷却」では、大量の窒素ガスを消費します。

このタイプの炉では、油冷と同じ程度の冷却性能があるタイプも多いのですが、ガスを一定方向から大量に流すために、品物に曲がり(歪)が生じやすいことから、能力を押さえて、適度な流量で冷却される場合も多いようです。

もちろん、作業効率を高めるために2室、3室構造にしたり、窒素ガスによる冷却ではなく、油冷装置を備えるタイプもあります。

油冷をすると、大きな品物でも十分な硬さを得られる冷却ができるのですが、消防法などの対応やメンテナンスが大変になるのは避けられません。

真空炉には、鉄鋼の焼入れ焼戻し用のほかに、表面処理装置など、様々な真空を利用した熱処理装置があります。(写真は第一鋼業(株)の協力)

当社の真空炉の例 2室油冷タイプ油冷2室タイプの真空炉当社の真空炉の例 1室タイプ1室構造の真空炉

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(来歴)R1.8 見直し   最終確認R6.1月

用語の索引

あ行 あいうえお
か行 かきくけこ
さ行 さしすせそ
た行 たちつてと
な行 なにぬねの
は行 はひふへほ
ま行 まみむめも
や行 やゆよ
ら行 わ行 らりるれろわ

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